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生命保険金は特別受益に該当しないケースもあります
質問
亡くなった父が契約者であり、被保険者で長男である私が受取人となっていた生命保険契約の死亡保険金を受け取りました。
相続人は3人(母、私、弟)です。
遺産分割協議に際し、この生命保険はいわゆる「特別受益」として扱う必要があるのでしょうか?
契約者(保険料負担者) | 父 |
---|---|
被保険者 | 父 |
保険金受取人 | 長男 |
回答
ケースにもよりますが、特別受益に該当しないという判決もあります。
民法の規定では相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり生前の結婚の際の持参金、多額の学費、留学費用、商売を始める際の開業資金、生活費等の贈与を受けた者がいる場合には、それを「相続分の前渡し」であるとして相続発生時においてその者の相続分を減らすこととし、これをもって被相続人から生前金品をもらった者とそうでない者とのバランスを図ることとする考え方があります(民法903@)。
このように生前に贈与を受けたり、遺贈を受けたりしたものを「特別受益」といい、その受けた者を「特別受益者」といいます。
相続発生時において相続人全員がこの民法条の考え方を了解し、特別受益があったものとして遺産分割する場合には、いったん過去の特別受益分を現在価値に換算し、相続財産に加算した上、仮定の相続財産額を算出します。それに基づいて分割した相続分から特別受益分を差し引いた価額をもってそれぞれの相続分とします。
(注)この特別受益の考え方は民法上の遺産分割の考え方であり、相続税法上の「相続開始前3年以内の贈与財産の加算」とは、別の概念です。
したがって、いつまでさかのぼって特別受益と考えるかは、あくまで相続人間の合議によることになります。
学説と判例
《学説》
特定の相続人を受取人とした死亡保険金が特別受益に該当するかどうかについては、学説上も意見が分かれていました。
1.死亡保険金は、保険契約に基づき受取人に支払われるものであり、保険金受取人固有の財産である。
したがって、元々相続財産ではないため、特別受益の考え方そのものの概念が存在しない、という説。
2.被相続人が保険料を負担し、その結果保険金を受け取ることができたのだから、当然に相続人の財産の前渡であり保険金は特別受益に該当する、という説。
《判例》
これらの学説の考え方について、「遺産にはあたらず、また原則として特別受益にも該当しない」という判例(平成16年10月19日最高裁)があります。
この判例では、「被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の一部の者を保険金受取人と指定して締結した保険契約に基づく保険金請求権は、その保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって、保険契約者または被保険者から承継するものではなく、これらの者の相続財産に属するものではない。」
また、「死亡保険金請求権は、被保険者が死亡したときに初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであるから、実質的にも保険契約者または被保険者の財産に属していたものとみることはできない。」とされ、
「保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権またはこれを行使して取得した死亡保険金は、民法903条1項に規定する遺贈または贈与にかかる財産(特別受益)には当たらないと解するのが相当である」としています。
ただし、「死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生じる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持ち戻しの対象となると解するのが相当である。」
という条件がついており、特段の事情に有無は、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人および他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきとしています。
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